「AI が買い物をする時代」は、もう始まっている
「AI エージェンティックコマース」
この言葉を聞いて、あなたはどう感じますか?
「興味深いけど、まだ先の話でしょ?」
「海外の大手企業が実験してる段階でしょ?」
「日本の中小ECには、まだ関係ないよね?」
もしそう思っているなら、この記事を最後まで読んでみてください。
なぜなら、その「まだ先」が、この数ヶ月で一気に「もうすぐ」になってしまった印象があるからです。
先日、Google が発表した UCP(Universal Commerce Protocol)という、AI エージェントが EC サイトで買い物をするためのプロトコル(共通言語)について記事を投稿しました。
しかし正直に言えば、日本国内の販売者や国産カート ASP の方々の反応を見ていると、「AI エージェンティックコマース」というテーマへの熱量は、まだ高くないように見えます。
それは当然かもしれません。技術的な話は抽象的で、自分のショップに何が起きるのかが見えにくいからです。
だから今回は、もう少し具体的に、身近に、自分事として捉えられるように、この数ヶ月で起きた出来事を整理してみました。
この数ヶ月で、世界は一気に動いた
まず、時系列で整理してみよう。
2025年10月21日、OpenAI が AI ネイティブブラウザの Atlas を発表
OpenAI は、AI ネイティブブラウザ「Atlas」を発表しました。
ChatGPT 搭載のブラウザー、ChatGPT Atlas が登場 | OpenAI
ここで重要なのは、Atlas が買い物専用ツールではないという点です。
これは、人間がブラウザで行うあらゆるタスク、例えば、調査、要約、旅行の計画、そして購買をAIが自律的に代行する汎用エージェントとして設計されています。
例えば、ユーザーが「予算5万円で、キャンプ用のテントを探して」と指示すれば、Atlas は複数の EC サイトを巡回し、商品を比較し、最適な選択肢をカートに入れる。 そんな未来が、もはや構想ではなく実装可能な機能として提示されたのです。
しかしこれは、Atlas の機能のほんの一例に過ぎません。
汎用的であるからこそ、その影響は特定の EC アプリに留まらず、すべてのウェブサイトに及ぶ。これが、専用アプリとの決定的な違いです。
2026年1月28日、Googleが「Chrome + Gemini 3」を発表
そして2026年1月28日に、Google が動きました。
世界で最も使われているブラウザ「Chrome」に、次世代 AI 「Gemini 3」と「Auto Browse(自動ブラウジング)」を統合すると発表したのです。
OpenAI が「新しい船(Atlas)」を作ったのに対し、Google は「既存のインフラ(Chrome)」をアップデートすることで、同じ未来を実現しようとしています。
つまり、数十億人のユーザーが既に使っているブラウザが、一夜にして汎用 AI エージェントに進化したのです。
この2つの発表が意味するのは、ただ一つ。
「AIが買い物をする時代」は、もはや未来の話ではありません。
これまでは人間が画面を見て操作していましたが、これからはブラウザに搭載された汎用AIエージェントが、あなたのショップにアクセスしてきます。
ここで、ひとつ確認しておきたいこと
あなたのショップは、この汎用 AI エージェント(Gemini や ChatGPT)に対して、正しく情報を渡せる構造になっているでしょうか?
具体的には、
- 在庫状況を、AI は把握できるか?
- 商品の詳細(サイズ、色、素材、配送条件など)を、AI は理解できるか?
- 価格を、AI は正しく認識できるか?
- そして何より、AI はあなたの商品をカートに入れることができるか?
もし、これらの問いにはっきり「YES」と答えられないなら、あなたのショップは、AI にとって「入店できない店」「詳細が分からない店」になりつつあるかもしれません。
AI と「会話」するために必要な2つの経路
言葉で説明するよりも、見ていただいた方が早いでしょう。
これは、弊社(Yuwai)が独自に解析・体系化した「Googleショッピンググラフにおけるデータフロー図」です。

この図を見ると、AI があなたの商品を「見つけて、理解して、カートに入れる」までに、2つの重要な経路があることが分かります。
経路1:AI の頭脳に商品情報を届ける Upstream(青い矢印)
図にある青い矢印は、商品データ(Product Data)がネットショップのカート(e-commerce platform)から Google Merchant Center を経由して、Google ショッピンググラフ(Shopping Graph:Google AI の頭脳)に届く流れを示しています。
ここが途切れていると、どんなに良い商品でも、AI はその商品の存在を知ることができません。つまり、検索結果にすら出てこないのです。
これは、正確な在庫情報、詳細な商品スペック(素材、サイズ、重量)、全商品の GTIN(JAN コード)など、データの品質を担保するのは販売者自身の責任だということを意味しています。
経路2:AI が直接カートにアクセスする UCP(右上からの青い矢印)
図の右上にある、「Google Surface」から「e-commerce platform(カートシステム)」へ直接伸びている一本の青い矢印。これが UCPです。
技術的に言えば、これは単なる API 連携ではありません。AI が商品データ(在庫、価格、仕様)をリアルタイムかつ構造的に解釈し、購入プロセスを完結させるための通信プロトコル(共通言語)です。
ネットショップのカートが UCP に対応していれば、AI は「在庫確認→カート追加→決済」の手続きを瞬時に完了できます。
ここで重要なのは、UCP というパイプだけでは不十分であるという点です。
どんなに立派なパイプ(UCP)があっても、そこに流す「水(データ)」、つまり Upstream 側のデータ供給が途絶えていれば、AI にはその商品の存在自体が伝わりません。
「パイプ(UCP)」と「水(Upstream)」の両方が揃って、初めて AI に選ばれるショップになるのです。
これは、Google だけの話ではありません
「Chrome の話なら、うちは関係ない」と考えていないでしょうか?
重要なのは、UCP や Schema.org といった全世界共通のデータ規格が、AI 時代の世界共通言語になるという事実です。
今、Atlas を擁する OpenAI や、検索エンジンに取って代わることを目指している Perplexity、そして iPhone に搭載される Apple Intelligence。
彼ら(AI)が商品を探す時、何を見ているでしょうか?
そう、Google の Gemini と同じく、構造化された商品データです。
UCP は Google のためだけの規格ではありません。将来的にあらゆる AI プラットフォームが参照する「共通基盤」になる可能性を秘めています。
実際、Apple Intelligence も Google の技術基盤を採用すると報じられており、UCP のような共通規格の重要性はさらに高まっていくでしょう。
つまり、ここでデータを整備することは、未来のあらゆる AI に対して店を開くことと同義なのです。
AI エージェント時代における「データ入力」の再定義
AI によるレコメンド精度が飛躍的に向上する中、データ不備は「表示頻度」だけでなく「カート追加率」の低下に直結します。
AI が確信を持てない商品は、ユーザーに提案すらされません。
つまり、AI エージェント時代において、「データ入力」とは単なる事務作業ではなく、AI に対するプレゼンテーションそのものなのです。
「面倒なデータ入力」こそが、AI エージェントに対する最強の営業活動なのです。
国産カートの「強み」と「課題」を再考する
ここまで言うと、「じゃあ、最初から UCP に対応している海外製ツールに乗り換えればいいのか?」と思われるかもしれません。
僕は、安易にそう言いたくありません。むしろ、日本のネットショップ経営者には、国産カートを使い続けてほしいと本気で思っています。
なぜなら、日本のカートには世界に誇れる「対・人間のおもてなし」があるからです。
- 「今回だけお届けをスキップ」という柔軟な定期購入設定
- 「のし・名入れ」の細やかなオプション
- 日本独自のポイント商圏との連携
これらは、日本の商習慣における対・人間の LTV(顧客生涯価値)を高める機能において、国産カートが依然として強力な優位性を持っていることを示しています。
重要なのは、「人間への接客(フロント機能)」と「AI への接続(データ連携)」を二項対立で捉えないことです。
もちろん、ベンダー側にとって新しいプラットフォームごとに API を開発・維持するコストが甚大であることは、僕も痛いほど理解しています。
だからこそ、Google Merchant Center や UCP のような「共通言語」への細やかな対応が、現実的な打開策になります。個別の AI に対応するのではなく、一つの世界標準に対応することで、AI への接客を一気に解決できるチャンスなのです。
今、あなたができること
Chrome に Gemini 3が搭載され、Atlas が実用化に向けて動き出している今、「AI エージェンティックコマース」は、もはや未来の話ではありません。
しかし、焦る必要はありません。なぜなら、やるべきことは明確だからです。
このような技術的な変革期において、ネットショップの経営、運営、支援に携わる人々がすべきことは「情報のキャッチアップ」だけではありません。資産の棚卸しです。
ネットショップを運営されている事業者の皆さまへ。まずは「現状把握」から
まずは自社の現場を見てみてください。
- Google Merchant Center へのデータ供給(Upstream)は、途切れていませんか?
- 商品情報(在庫、価格、詳細)は十分で、AI が読み取れる形(構造化データ)で整備されていますか?
商品データの整備は、一朝一夕では終わりません。だからこそ、今から着手する必要があります。
そして、その準備ができたら、あるいは、準備ができていないと気づいたら、契約しているカート会社へ、戦略的な対話を始めてみてください。
- 「御社のカートは、UCP や Schema.org への対応ロードマップをお持ちですか?」
- 「私たちが入力したデータを、AI へ余すことなく渡せる構造になっていますか?」
これはクレームではなく、共に生き残るための戦略的対話です。
国産カート ASP を提供されている事業者の皆さまへ
僕は、この変化を「脅威」ではなく「チャンス」だと捉えています。
UCP のような新しい技術標準への対応は、確かに開発投資を要します。しかし、その投資を無駄にしないためには、パイプに流すデータ(Upstream)の整備が不可欠です。
Yuwai は、Merchant Centerを通じた商品データ最適化の専門家として、この「データ整備」の部分で、ベンダーと事業者の橋渡しをしたいと考えています。これは Yuwai の掲げるミッションでもあります。
- 契約者向けに、データ整備の啓蒙コンテンツを制作したい
- Google Merchant Center 対応における、データ側の技術要件について相談したい
- 顧客の成長のために自社のデータフィードが Google や AI からどう見えているか診断したい
そのような課題をお持ちなら、まずは情報交換からでも構いません。お気軽にお声掛けください。
AI 時代、生き残るのは「良い商品」を持つ店だけではありません。 「良いデータ」を持つ店です。
AI エージェンティックコマースの波は、脅威であると同時に、正しくデータを整備している事業者にとっては、巨大なプラットフォームから良質なトラフィック(AI による推奨)を得る好機でもあります。
国産カートベンダーと共に、この新しい波を「日本流」で乗りこなしましょう。
僕たちの底力は、こんなものではないはずです。




