エージェンティックコマースをめぐって、ひとつの空気が広がっています。「Shopify を使っていれば、AI 時代の買い物にも対応できる」という安心感です。
無理もありません。Shopify は OpenAI の ACP にも Google の UCP にもいち早く対応し、AI エージェント時代の受け皿として頭ひとつ抜けています。しかも Shopify が提供する UCP は、公開されている規格よりもさらに踏み込んだ独自の機能まで備えています。UCP 対応と聞けば、「これで AI に商品を売る準備は整った」と感じるのが自然でしょう。
ですが、ここには見落とされがちな穴があります。
結論から言ってしまいます。Shopify をどれだけ整えても、それだけでは AI に十分な商品情報が伝わらない可能性があります。AI が商品を「買う」仕組みと、AI が商品を「見つける」仕組みは、別のレイヤーで動いているからです。
UCP が主に効いてくるのは、その「買う」側です。では「見つける」側は、誰が握っているのか。そして日本のネットショップにとって、いま本当に手を入れるべきはどちらなのか。入り口と出口を分けて考えると、やるべきことの順番が見えてきます。
UCP は「決済の規格」ではない
UCP(Universal Commerce Protocol)という言葉を、AI チャットの中で決済まで済ませるための仕組み、と捉えている人は多いです。会話の流れで「これ買っといて」と頼めば、AI がカートに入れて決済まで完了させる。あの体験を支える規格だ、と。
それは間違いではありません。ただ、UCP の射程はもう少し広いのです。
UCP は Google と Shopify が共同で策定したオープンな規格で、商取引のひと続きの流れを4つの段階として定義しています。商品を見つける「発見」、在庫や価格や対応可能な条件をやり取りする「交渉」、支払いを済ませる「チェックアウト」、注文状況や配送を扱う「注文管理」。決済はこのうちの一段階にすぎず、その手前には「発見」、つまり商品探索が、仕様として最初に置かれています。
ここまで読むと、こう思うかもしれません。「探索も UCP に入っているなら、UCP に対応すれば AI に見つけてもらう準備も整うのでは?」と。
ここに、落とし穴があります。
仕様の中に探索が定義されていることと、AI の入り口が実際に探索で UCP を読みにいくことは、まったく別の問題です。規格書に書いてあるからといって、目の前の AI が本当にそのルートで商品を探しているとは限りません。
この「仕様」と「実装」のあいだのズレ。ここが、この記事の出発点になります。
「買う」と「見つける」は、別のレイヤーで動いている
では、実際の入り口は何を読んでいるのか。ここを具体的に見ていきます。
ひとくちに「AI で商品を探す」と言っても、その AI が裏側で参照しているデータの出どころは、入り口ごとにばらばらです。
Google の AI Mode や Gemini が商品を提案するとき、参照しているのは Google のショッピンググラフです。これは Google Merchant Center(以下 GMC)のフィードを中核に、ウェブ上の情報などを統合した、Google の商品ナレッジベースです。
一方、ChatGPT が商品を扱うときに読むのは、Google のショッピンググラフではなく、ACP(Agentic Commerce Protocol)のフィードやウェブ上の情報といった、別系統のソースになります。Microsoft の Copilot は、また別です。自前の Microsoft Merchant Center を商品データの基盤としつつ、UCP のフィードを取り込み、さらに Shopify のカタログとも直結する立ち位置にあります。
| AI Mode / Gemini | ChatGPT | Copilot | |
|---|---|---|---|
| 主導 | Google + 業界連合 | OpenAI + Stripe | Microsoft |
| 商品探索で読むソース | ショッピンググラフ(GMC+ウェブ上の情報) | ACP フィード+ウェブ上の情報 | Microsoft Merchant Center(UCP / Shopify Catalog 連携)+ウェブ上の情報 |
| 決済(出口)のレイヤー | UCP | ACP(現在は探索注力、決済は販売者側へ誘導) | UCP(MMC 経由で利用) |
| 商品探索(日本) | AI Mode で商品提案が始動。GMC のデータを元に動き始めているとみられる(テスト段階) | 価格付きの商品カルーセルは表示されるが、ACP による探索ではなく Web 検索由来が多いとみられる | 商品名やショップは提案することがあるが、MMC ベースの探索かは未確認で、 Web 検索由来が多いとみられる |
| UCP 決済(日本) | 未提供 | ―(ACP・別系統) | 未提供 |
※ Amazon は独自路線。2026年5月に Rufus と Alexa+ を「Alexa for Shopping」へ統合し、他サイトでの購入を代行する Buy for Me 機能も備える、自社経済圏中心の AI ショッピングを展開(米国先行)。ただし2026年4月、UCP の技術運営(Tech Council)には参加し、標準規格づくりには関与しています
整理すると、こうです。商品を「見つける」のが入り口、「買う」のが出口。そして入り口と出口とでは、読まれているデータの出どころが違う。
同じ「AI に商品を探してもらう」でも、入り口が変われば、商品を見つけてもらうために整えるべきデータの送り先が変わります。これが、前項で触れた「仕様」と「実装」のズレの正体です。UCP という仕様に探索が定義されていても、目の前の入り口がその探索ルートを使っているとは限りません。
たとえば AI Mode の場合を考えてみます。Google によれば、同社はすでに、600億超の膨大な商品リスティングを抱えたショッピンググラフという探索基盤を持っているといいます。販売者の側も、すでに GMC にフィードを出して投資している。そう考えると、Google にとっても販売者にとっても、探索のためにわざわざ UCP を主経路にするインセンティブは小さい。AI Mode が UCP を中心に商品を探しているとは考えにくい、というのが筆者の見方です。
ここで、レイヤーの話に戻ります。
商品探索(見つける)と決済(買う)は、そもそも別のレイヤーの仕事です。たとえば Google の場合、商品データを供給するソースのレイヤーが GMC であり、その商品をカートに入れて決済を完了させる取引のレイヤーが UCP にあたります。同じ Google というプラットフォームの中でも、見つけてもらうための仕組みと、買ってもらうための仕組みは、別々に動いているのです。
だから、こういうことが起きます。UCP にきちんと対応すれば、AI の会話の中で「買える」状態は実現できます。ですが、それは「見つけてもらえる」を保証しません。見つけてもらえるかどうかは、入り口が読んでいる探索ソース…多くの場合、ショッピンググラフ=GMCにデータが届いているかどうかで決まるからです。
どれだけ決済の仕組みを整えても、その入り口が探索でそこを見ていなければ、商品はそもそも候補に挙がりません。「買える」と「見つかる」は、別の問題なのです。
では、日本のネットショップにとって、いま効いてくる入り口はどれなのか。そこを次に見ていきます。
日本でいちばん大きい入り口は、どこか
では、日本のネットショップにとって、いま効いてくる入り口はどれなのか。
先に、消去法で一つ外しておきます。UCP 経由の探索が日本で中心になる、という線は当面描けません。UCP はまだ日本で提供されておらず、展開されるとしても、現時点の感触では、まだ1〜2年はかかるでしょう。仕様に探索が含まれていても、その探索ルートが日本の買い物客の前に現れるのは、まだ先の話になります。
では、今この瞬間の入り口は、どこが大きいのか。
ここで、よくある調査を一つ思い浮かべてみてください。「商品を調べるとき、どの AI を使いますか?」という類のアンケートです。この種の調査では、ChatGPT のような独立したアプリが上位に出やすい。ですが、その数字をそのまま「最も使われている入り口」と読むと、足をすくわれます。
設問が、「わざわざ AI のアプリを開いて使う」という能動的な行動を測っているからです。アプリの名前を思い浮かべて答える形式では、アプリとして意識されやすいサービスが有利になる。裏を返せば、アプリを意識せずに使われている入り口は、この手の調査ではすっぽり抜け落ちます。
ここからは筆者の見立てになりますが、日本でいちばん大きい商品探索の入り口は、Google 検索から地続きの AI Mode になっていく可能性が高いと考えています。根拠は二つあります。
一つは、日本における Google 検索の圧倒的な強さです。検索シェアの計測には調査手法ごとの幅があるものの、総務省の情報通信白書も採用している StatCounter の集計では、日本ではパソコン・スマートフォン・タブレットのいずれの端末でも、Google が7割以上を占めています。とりわけスマートフォンでの比率は高い。細かな数値はさておき、日本人が何かを調べるときの入り口が、今も大半は Google 検索だという大枠は動かないでしょう。
もう一つは、その Google 検索が、AI Mode を内側に取り込みつつあるという事実です。Google が2026年5月に公表したところによれば、AI Mode は提供開始から1年で、グローバルの月間アクティブユーザーが10億を超えました。クエリ数は四半期ごとに倍以上のペースで増えています。(これは Google 自身が公表した数字で、第三者による検証値ではない点は差し引いて見ておきたいところです。)
そして Google は、買い物客の動きについてこうも述べています。多くの買い物客は、まず従来の検索から入り、より深く調べる段階で AI Mode に移る、と。電子機器、アパレル、美容、自動車といった分野で、その傾向が顕著だといいます。
この二つを重ねると、こうなります。日本人の商品探索の入り口は今も大半が Google 検索で、その Google 検索が AI Mode へと地続きに接続されていく。ならば、日本の商品探索の主動線もまた、検索から AI Mode へと流れていく…そう見るのが自然です。直接それを示す日本国内のデータはまだ手元にありませんが、検索シェアと動線の構造から、蓋然性は十分に高いと考えています。
ここで、少し前の話を思い出してください。その AI Mode が商品探索で読んでいるのは、Google のショッピンググラフ、つまり中核となる GMC のデータでした。
しかも、これは将来の話だけではありません。実際、日本語の AI Mode でも、商品が価格やレビュー、販売元とともに提案される動きが、すでにテスト段階で現れ始めています。表示される商品データの体裁から見て、その出どころはショッピンググラフ、その中核である GMC のフィードとみるのが自然です。本格運用の公式アナウンスこそありませんが、入り口の準備は、日本でも着々と進んでいるように見えます。
日本でいちばん大きく育ちつつある入り口は、GMC を読んでいる。話は、ここに戻ってきます。
だから、Shopify を整えたら、その先に Google Merchant Center を見る
ここまでの話を、一本につなげてみます。
日本でこれから最大の商品探索の入り口になっていくのは、検索から地続きの AI Mode です。そして AI Mode の探索を支えているのは、GMC を中核とするショッピンググラフでした。とすれば、AI に商品を「見つけてもらう」ために手を入れるべき場所は、はっきりしています。Google Merchant Center です。
これは、筆者だけの見方ではありません。Google 自身が、生成 AI 検索向けに公開している『Google 検索の生成 AI 機能向けに最適化するための Google のガイド』の中で、はっきりこう述べています。
生成 AI の回答には、必要に応じて、商品リスティング、商品情報、ローカル ビジネスに関する情報が含まれることがあります。Merchant Center(Merchant Center フィードなど)や Google ビジネス プロフィールなどのサービスを利用すると、AI の回答と Google 検索のその他の結果の両方で商品やサービスが表示されやすくなります。
「AI に商品を見つけてもらうなら GMC を整える」というのは、Google が公式に示している方向でもあるのです。
ここで、Shopify の立ち位置を正しく置き直しておきたいと思います。
Shopify は、出口、つまり「買う」レイヤーでは、間違いなく優秀です。UCP に早くから対応し、独自の機能まで備え、AI が会話の中で決済を完了させる仕組みを、いちはやく整えています。この点で Shopify を選ぶ判断は、まったく理にかなっています。
ただ、出口がどれだけ優秀でも、入り口は別の話です。
AI Mode の探索が土台にするのは GMC を中核としたデータであって、Shopify のカートに登録された情報そのものではありません。Shopify の情報は、Google 連携を通じて GMC へ送られて、はじめて探索の土俵に乗ります。そしてここに、見落としやすい段差があります。カートの標準的な連携は、商品データの基本的な部分は自動で GMC に渡してくれますが、すべてを渡しきれるわけではありません。
たとえば、会話型の商品探索のために Google が新たに設けた属性群は、カートが標準では扱えないため、別途補わないと GMC に届きません。あるいは、商品名ひとつとっても、店頭表示用のタイトルと、探索で見つけてもらいやすいタイトルは、必ずしも同じではない。後者に最適化しようとすれば、カートの表示とは別に、フィード側でタイトルを整える手当てがいります。
これは探索だけの話ではありません。本筋からは少し外れますが、ショッピング広告まで視野に入れるなら、なおさらです。広告の成果を引き出すために充実させたい属性まで考えていくと、カートの標準連携だけでは早晩足りなくなり、補助フィードによる補完は事実上の必須になっていきます。
つまり、Shopify でどれだけ商品ページとデータを整えても、それだけでは Google に渡る情報が足りなくなる可能性があります。出口を整えることと、入り口に十分な情報を届けることは、別の作業だからです。
だから、順番はこうなります。まず Shopify でデータと商品ページを整える。そのうえで、そこで整えた情報が GMC にきちんと届いているか、GMC が求める水準を満たしているかを、もう一段確認する。Shopify を整えることはゴールではなく、出発点です。その先に、GMC を射程に入れる。
ここで、こう思う人もいるかもしれません。「商品探索なら、いま ChatGPT も伸びているのでは」と。たしかにその通りで、ChatGPT は決済よりも商品探索に軸足を移し、1日あたり数千万件規模のショッピングに関する問い合わせをさばく、巨大な入り口に育っています。
ですが、それは AI Mode を捨ててよい理由にはなりません。ChatGPT が大きいことと、AI Mode が大きいことは、両立する別々の事実だからです。
そして ChatGPT が読むのは ACP のフィードやウェブ上の情報、AI Mode が読むのは GMC。入り口ごとにソースが違う以上、どちらかを取れば片方が抜けます。両方の入り口を取りにいくなら、Shopify を整えたうえで GMC も射程に入れる。この組み合わせが、いちばん広く入り口をカバーするのです。探索の主役が増えても、この結論は揺らぎません。
冒頭の問いに戻りましょう。「Shopify を使っていれば、AI 時代の買い物にも対応できる」。この安心感は、半分正しくて、半分足りません。出口は、たしかに Shopify が引き受けてくれます。ですが入り口は、あなた自身が GMC に向き合って、はじめて開くのです。
Shopify と GMC は、どちらが上かを競う関係ではありません。入り口と出口、それぞれの役割を担うものです。AI に選ばれる店になるために必要なのは、その両方に、それぞれの作業をすることなのです。
本記事は「入り口と出口」という切り口で論じましたが、エージェンティックコマースへの構え方を、もう少し大きな視点で整理した記事もあります。何から手をつけるべきか迷っている方は、こちらもどうぞ。
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