運用型広告の運用者に求められるテクノロジーやエンジニアリング領域の重要性について雑に考える

2025年の投稿は、コラムというかポエムっぽい感じで幕開けとなります。あけましておめでとうございます。本年も Yuwai をよろしくお願いいたします。

2024年の年末に友人たちとの忘年会の席にて、2024年の10月に JADE に寄稿した下記のブログが良かったので、あのような感じで、運用者が備えておくべきテクノロジーやエンジニアリングに関する知識の重要性についての記事を書いてほしいとテーマを授かっていました。

ちなみに、その記事の中ではテクノロジーに限らず色々なものが求められてくるはずだから、スキルポイントの振り方をちゃんと考えようねという趣旨について述べたのでした。

今回の投稿は、以前 JADE に寄稿したそのブログ記事と方向性はほとんど同じなのですが、テクノロジーやエンジニアリングに主眼を置いて少し深掘り、年末年始で頭の中に雑に寄せ集めてみたので、それを寄せ豆腐のようにアウトプットしてみます。

運用型広告にまつわるテクノロジーやエンジニアリングへの理解は「なぜ」必要なのか

そもそも論として、運用型広告は管理画面のオペレーティング経験を積むだけでも、それなりに効果を上げることはできるようになってきました。

それなのに「なぜ」運用型広告にまつわるテクノロジーやエンジニアリングへの理解が必要なのでしょうか。

広告運用者としての説明責任を果たすため

運用型広告のプラットフォームは、AIや機械学習のめざましい進化によって自動化が進んできています。

多くの運用者が感じていることだと思いますが、自動化によりコントロールできる要素がどんどん減らされていき、操作という操作が必要なくなってきている状況です。

その中でも自動入札やターゲティングについては、広告が表示されるユーザーのアクティビティ(行動履歴)や個人のデータ(性別・生年月日・興味や関心事など)といったプラットフォーム側しか持ち得ないデータ(シグナルとも呼ばれます)を最大限活用するというのが当たり前になりました。

これらのデータは、広告プラットフォーム上でどのように使われているか可視化されることはありません。つまり、運用者が視認できないところですべてが処理され、オークション(広告枠の競争入札の仕組み)への入札価格を決めたりターゲティングを決めたりされるということです。そして、それらによって起こったこと、例えば広告の表示やクリック、コンバージョンなどは結果としてレポートがなされます。

つまり、広告プラットフォームのシステムがどのような意図で処理をしているかを把握する術がない中で、広告運用者は数少ない設定要素とレポートから何が起こっていたか?を推測しなければならなくなったということです。

数少ない情報から何が起きていたかを推測するのは至難の業ですし、仮説が正しいかどうかも検証が難しい。これはなかなかな状況です。

自動化が主流になる前は、ターゲティングから入札単価からすべて人の手によって設定することが当たり前でした。そのため、運用者自身の仮説に基づいてアカウントを調整し、広告配信後に結果を分析し、次の施策につなげるというサイクルを回すことは、それと比べれば難しくはありませんでした。

広告運用の自動化と広告プラットフォームのブラックボックス化が進んだ今、広告費を預かる運用者の立場としては、そのような状況であっても、以前と変わらず説明責任を果たす必要があります。

そのための最も正しかろう仮説を立てるためには、広告プラットフォームで採用されている仕組み(テクノロジー)を理解したり、その仕組みを活用するために何が必要か(エンジニアリング)を知り、仮説を立てるために必要な情報は可能な限り把握しておく必要があります

最新のアドテクノロジーを活用するため

プライバシー保護とデータの断片化に対する計測技術

運用型広告のプラットフォームは、AI と機械学習によってめざましい進化を遂げ続けています。その一方で、プライバシー保護の強化により、広告運用に活用できるデータは断片化し、どんどん制限されてきています。

特に、広告の効果測定を行うために欠かせない Cookie の利用に対して大きく制限が掛けられるようになってきました。

この Cookie 利用の制限は、特にコンバージョンの計測に大きな影響を与えています。運用型広告の自動化は、コンバージョンがしっかり計測できて初めて成立する仕組みなので、コンバージョンが計測できなくなると死活問題です。

この Cookie 制限に対する影響を最小限に抑えるため、各広告プラットフォームは最新のアドテクノロジーを用いた計測手段を提供するようになりました。代表的な計測手段でいうと、Meta 広告のコンバージョン API (CAPI)や詳細マッチング、Google 広告の拡張コンバージョンなどが挙げられます。

コンバージョン API は、Cookie レスの計測方法です。これまでは JavaScript と Cookie を使って計測を行っていましたが、この新しい方法では、広告主のサーバーから直接広告プラットフォームにデータを送信することができます。この方法により、Cookie の制限に影響されない安定した計測が可能になります。

コンバージョン API の構成イメージ

ただし、この仕組みを採用するためには、広告主が計測用のサーバーを用意すること、加えて Meta 社の技術仕様に則ったシステムの開発が必要になります。最近では、サードパーティのツールだったりECプラットフォームなどとの連携で簡単に実装できるケースも増えてきており、広告主がシステム開発をする事なく対応することもできるようになってきました。

Meta の詳細マッチングや Google 広告の拡張コンバージョンは、広告プラットフォームが持つユーザーの情報と広告主から送信された個人情報をマッチングさせることで計測する仕組みです。計測に必要なのは個人情報と計測のタグのカスタマイズなので、コンバージョン API と比較すると容易に実装は可能です。

詳細マッチングや拡張コンバージョンの構成イメージ

しかしながら個人情報を扱うことになり、個人情報を第三者となる広告プラットフォームに送信するためには個人情報保護法に則った対応が必要になります。

個人情報保護法への準拠(対応の概要)

特に Meta や Google 広告では、フォーム等に入力された個人情報を自動的に送信する機能も有しており、個人情報保護法に準拠しないまま個人情報を送信してしまうリスクがあります。これをきちんとリスクだと認識するには、テクノロジーとエンジニアリングの知識、その上で個人情報保護法の知識がないといけません。つまり、テクノロジーとエンジニアリングに疎いままだと、自動化の誘惑に負け、法令違反を起こしてしまうというケースが起きえる状況下にもあるのです。

これらの計測の仕組みが何のために必要になるのか、どのような仕組みでどのような計測ができるのか、どのように実装すれば良いのか?などテクノロジー(基本的仕組み)やエンジニアリング(どう実装するか)の知識がないとディレクションすら行うことができず、路頭に迷うことになってしまいます。さらに、これらの知識の他に法的な知識も関わってくることがとても増えてきました。そのため、運用者自身がこれらの基礎知識を持っておくことが重要になってきています。

最新の Web テクノロジーに対するエンジニアリング

プライバシー保護の課題に加えて、最新のWebテクノロジーへの対応も求められています。

Web サイトを構築・高速化する技術として SPA (Single-Page-Application:ページ遷移時に画面全体を読み込み直さないことで必要なデータの削減や高速化を行うための技術の一つ)が多く採用されるようになってきました。

SPA というとイメージが湧かないかもしれませんが、Web サイトのお問い合わせフォームで、問い合わせ開始から問い合わせ完了まで、ブラウザのアドレスバーに表示されている URL が変わらないケースに出くわしたことがあるかもしれません。そのような Web サイトは SPA を使ったページになっている事が多いです。

SPA が採用された Web サイトでよく課題となるのが、計測タグの実装です。特に Google タグマネージャーなどのタグマネジメントツールを使っているケースで顕著です。

ページが変わっても URL が変わらず、ページの内容だけ変わるケースが発生するわけですから、Google タグマネージャーで最もよく使われるページビュートリガーが機能しません。代わりに履歴の更新トリガーを使うことになります。しかも SPA をどのように使って Web サイトを構築しているかによっては URL が変わることもあり、ページビュートリガーが利用できる場合もあります。

最新の技術を採用した Web サイトでは、前述の SPA の例のように、これまでの常識が通用しなくなるケースが度々発生するようになってきています。Google タグマネージャーを使ってのタグ実装だとしても、最新のテクノロジー(基礎知識や技術仕様)を理解していないとエンジニアリング(タグの実装)ができなくなってきています。このように、運用者には従来の広告運用スキルに加えて、進化し続けるWebテクノロジーへの理解も求められるようになってきているのです。

基礎知識の重要性

運用型広告を運用するにあたり、そもそも知っておかねばならない技術的な基礎知識も欠けていることが多く見受けられます。

例えば、検索広告や動的検索広告を使っているのに検索エンジンの仕組みを知らない、ディスプレイ広告を使っているのに Google AdSense に触れてみたことがない、といった状況です。

当社研修資料「SEO のきほん」より抜粋

P-MAX は全自動だから、とりあえずアセットを追加して、それらしいオーディエンスシグナルの設定をすれば、良い感じに成果を生んでくれるとも限りません。仕組みとルールを知った上で扱うのとそうではないのとでは、成果も大きく左右されてしまいます。

他にも、ショッピング広告を利用しているが、EC カートと Google Merchant Center 間での商品情報のやりとり、EC カートの制約などが理解できていないままになってしまうなどは、非常にもったいない状況であります。

ギターを弾くにも運指だけできても不十分で、コード進行、弦の張り方から調律、アンプやエフェクターの仕組みや使い方などの基本知識と行動があってこそ良い音楽が弾けるのと同じです。

最新のアドテクノロジーやエンジニアリングまでをすべて一人で理解する必要はありませんが、広告運用者として最低限の基礎知識は知っておきたいです。前述の説明責任の話だけではなく、基礎知識を持っておくことで自身の視野や打ち手が広がってくることは間違いありません。

具体的にどのような知識領域が求められてくるか

では、具体的に求められるであろう知識領域はどのようなものなのでしょうか?

箇条書きですが、筆者である田中が独断と偏見で列挙してみます。あまりにも箇条書きが過ぎるのですが、主旨が雑に考えるコラムということでご容赦ください。

また、このパラグラフの最後に Mapify でロジックツリーにした図も添付するので参考にしてみてください。

広告の計測

ファーストパーティCookieを使う

  • ファーストパーティーCookieとサードパーティCookieの違いを理解
  • LPと成果地点のドメインが異なる場合は、クロスドメイントラッキングの知識が必要

Cookieレスの計測

  • コンバージョンAPIに対する技術的知識や実装のディレクションが求められる
  • 詳細マッチングを通じて、個人情報(メールアドレスや電話番号)の使用が求められる
  • 法律に準じて、個人情報の取得や利用のための同意が必要

Cookie同意(Consent Management)の技術

  • 個人情報保護に対応するための理解が必要で、特にCookie同意(Consent Management)の技術が求められる
  • Cookieの外部送信のスキャンや分類、同意に基づくCookieコントロールの実施が必要
  • Google 同意モードを活用。CMPの導入が鍵となる

機械学習

広告のオークション

  • 自動入札の仕組みは過去データと予測値を用いた入札方法を基盤としている
  • 広告ランクと品質スコア、実際のクリック単価の決まり方を正しく理解する

P-MAX

  • データドリブンアトリビューションの理解が重要
    • 協力ゲーム理論におけるシャープレイ値
    • 反事実的条件法
  • オーディエンスシグナルの活用が広告効果を高める要因となる

タグマネジメント

HTMLやJavaScriptの理解

  • タグ実装にはHTMLやJavaScriptの基本的な理解が不可欠
  • WordPressなどのCMSにおけるタグ実装の仕組みを把握する必要がある

Google タグマネージャー

  • 適切なトリガーの選択が重要であり、DOMからの値取得が求められる
  • JavaScriptやDataLayerの利用による実装が必要で、技術的理解が求められる
  • Single Page Application(SPA)への技術的理解が求められる

検索エンジンの仕組み

基本的な仕組み

  • 検索エンジンはDiscover、Crawl、Rendering、Indexing、Rankingのプロセスを経て情報を整理する
  • 各プロセスの理解が検索エンジンの機能を最大限に活用するために重要である

アクセス解析

Google アナリティクス 4

  • イベント計測という仕組みに対する理解が必要
  • イベント設計と計測タグの実装

レポーティング

SQL

  • BigQueryの利用により大規模データの分析が実現可能である
  • 効率的なデータ分析のためにSQLスキルを向上させる必要がある

BIツールによるビジュアライズ

  • Looker StudioやTableauを活用し、データを視覚的に表現する技術が求められる
  • ビジュアライズにより、データの理解を深め、意思決定を支援する

データフィードマネジメント

Eコマース分野

  • 商品データベースの構造理解が重要で、Google Merchant Centerへのインテグレーションが鍵となる
  • eコマースプラットフォームとGoogle Merchant Centerとの連携に関する仕様を理解することが必要である

ダイナミックリターゲティング広告への適用

  • 商品データベースの構造理解やタグのカスタマイズがダイナミックリターゲティング広告を支え、効果的な広告配信に繋がる

API

レポートAPIに対する理解

  • ディメンションと指標の組み合わせを把握し、効果的なデータレポートを作成する能力が必要

サードパーティツールとのAPI連携

  • サードパーティツールとの連携により、データの統合が実現しやすくなる
  • モバイルアプリの計測ツールなどの連携にはAPIの知識がないと難しい場合がある

Mapify でロジックツリーに

恐らくこちらの方が見やすいかもしれないので添付します。あと、共有リンクも。

実践的な知識理解へのステップ

で、どうやって知識を深めていったら良いのか?というお話になるのですが、ステップとしては次のような感じになるのだろうなと考えています。

テクノロジーやエンジニアリングに対してきちんと興味を持つ

最も重要なのは興味を持つことが一番ではないかと思います。結局のところ。ずいぶんと精神論だな?と思われそうですが、興味がないことを理解する事ほど難易度が高いものはないです。

公式のドキュメントやマニュアルを読んで理解する

そして、興味を持ったところで公式のドキュメントやマニュアルを読み進めていただきたいのだが、オライリーの専門書を読むのに専門知識が必要になるのと同じで、これら公式のドキュメントは基本的に難しい。だけど、基本的なテクノロジーに関する知識を会得した上でのエンジニアリング経験とそうではない経験とでは、経験値として大きな差がでることは間違いないので、そこは頑張って乗り越えたい。

実際に手を動かす

基本的なテクノロジーについて理解が追いつくようになってきたら、ぜひ手を存分に動かしてほしい。英語だってシャドーイングがだいじ。

筆者は、運用型広告のテクノロジーの類いを理解し実装するための経験を積むため、個人でレンタルサーバーを借り、ドメインを取得し、CMS として WordPress をインストールし、ブログ記事を投稿しつつ Google AdSense で広告表示の運用を行い、Google タグマネージャーでタグマネジメントを学んだ。最終的にはサーバーサイドタギングを導入して Meta のコンバージョン API を実装したり、CDN (Contents Delivery Network)を理解するのに Cloudflare を導入したりしている。失敗しても誰にも迷惑がかからない完全なおもちゃ箱を構築しています。

ここまでみなさんがやれるとは思わないし、やる必要もないです。だけど、環境がないならば自分で用意できるし、お金がかかるから嫌だという事であれば、本は数千円掛けて買って読むのに、月額1,000円程度からでも構築できる Web サーバー構築には手を出さない理由にはなりません。

ちなみに、Google タグマネージャーのサンドボックス(色々試せる場所)として、SEM Technology の山田さんGTM Trial Shop というサービスを無償で提供してくれているので、こういったサービスを使って学んで見ることも大いにありです。特に PR 案件ではありませんが、山田さんの書籍「集中演習 デジタルマーケターのためのテクノロジー入門」もおすすめです。

理解が難しいポイントに関しては、専門家を見つけて師事する

それでも、公式のドキュメントやマニュアルが難しくて理解が出来ない、自分ではこのように理解をしているけれども自信がないなど、1人ではなかなか理解が進まずに悩むこともあるでしょう。

そのようなときは、身の回りに相談できる専門家を側に置いておくと良いです。上司、チームメイト、SNSでフォローしている人などなど。ここでは専門家の探し方までは触れませんが、同じジャンルでも何人かの意見が聞けるような状態になっているとベストです。専門家が言っていることが絶対正しいわけでも無く、人によっての流派や思考性などもあるので参考にするけど鵜呑みにしないといった状態に置いておくのが良いです。

さいごに

ここまでテクノロジーとエンジニアリングについて語ってきましたが、それらを知らなくてもそれなりに効果が出せてしまうぐらい、広告プラットフォームが優秀なので、テクノロジーやエンジニアリングに寄り添え!と言われてもピンとこないでしょうし、その感覚は間違ってはいないと思います。

ただ、知った上で広告運用することと、知らないままで広告運用をするのでは、運用者の経験やスキルとして大きな差が生まれてくる部分なので、まだしばらくは広告運用を仕事にしていきたいと考えているのならば、テクノロジーやエンジニアリングについての知識を得ておいても損はありません。

そして、これが最も重要なことですが、これらすべてを完璧に理解しようとは思わなくて大丈夫。

もし正面から向き合ってみようかな、でもどこから手をつけたら分からないということであれば、次を参考にしてみてください。筆者が考える優先順位が高い順です。

  1. 広告プラットフォームの仕組み
    • 広告のオークション、広告ランク、品質スコアの仕組み
    • 機械学習(自動入札、P-MAX、アトリビューション)
  2. 検索エンジンの仕組み
  3. タグマネジメント
    • Google タグマネージャー
      • ページビュートリガーの違い
      • タグの順序づけ(セットアップとクリーンアップ)
  4. 広告の計測
  5. アクセス解析
  6. レポーティング
  7. データフィードマネジメント
  8. API

それでもやはり苦手だな・・・という方もいるでしょう。自分の得意分野に集中し、テクノロジー領域は他の専門家に任せるという選択肢もありです。それがチームというものなので。社内、社外のどこでもよいので、ぜひ頼れる味方を見つけてみてください。

頭の中のモヤモヤを雑にアウトプットしているので、まとまりのない文章になってしまいましたが、1人の運用者だけにでも参考になるようであれば良いなと思います。

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